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公開日:2020年2月19日

施行前に確認しておきたい 債権法改正が実務に与える影響とその対策 月刊「企業実務」 2020年3月号

湊信明(湊総合法律事務所 弁護士)


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改正による消滅時効制度と法定利率の留意点

改正による個人保証人保護の留意点

改正による定型約款における留意点

改正による売買契約における留意点


今回の債権法の改正は、企業経営において数多く締結される契約に関わるものでり、大きな影響を及ぼします。
改正法は、一部の規定を除いてことし4月1日に施行されます。
施行を間近に控え、中小企業実務に与える影響と対策について、その主なポイントを解説します。


改正による消滅時効制度と法定利率の留意点

「民法の一部を改正する法律」が、平成29年6月2日に公布されました。
この法律は、主に民法の債権法関係を改正するもので、民法制定後120年の間に生じた社会や経済の状況の様々な変化に対応する必要があることと、裁判実務や取引実務で定着しているルールを、国民にわかりやすく明文化する必要があることから改正されたものです。


消滅時効制度の改正に関する留意点

(1)時効期間および起算点

【1】原則的な時効期間と起算点
旧法では、債権の消滅時効について、職業別に短期消滅時効が定められているなど、複雑でわかりにくいものでした。
そこで改正法では、時効期間を統一し、債権者が「権利を行使することができることを知った時」(主観的起算点)から5年間行使しないとき、または債権者が「権利を行使することができる時」(客観的起算点)から10年間行使しないときは、債権は時効によって消滅することとされました(改正法166条1項)(図表1)。

図表1 時効期間の見直し図表1 時効期間の見直し

【2】生命・身体の侵害による損害賠償請求権
生命・身体は重要な法益であり、これに関する債権は保護の必要性が高いことから、生命・身体の侵害による損害賠償請求権については、債務不履行に基づくものも、不法行為に基づくものも、時効期間が長期化され、いずれも主観的起算点から5年、客観的起算点から20年に期間が統一されました(改正法167条、改正法724条の2)。

(2)時効中断・停止の見直し

【1】時効完成猶予と更新
旧法では、消滅時効に関してそれまで進行していた時効期間をリセットして、一から時効期間を再スタートさせる「中断」と、一定期間が経過する時点まで時効の完成を延期する「停止」が設けられていました。しかし、中断には、「時効の完成の猶予」と「新たな時効の進行」の2つの効果が認められることから、改正法では、「時効の完成を猶予する部分」は完成猶予事由とし、「新たな時効の進行の部分」は更新事由とされました。そして、従来の「停止」については完成猶予事由とすることとされました。

【2】協議による時効の完成猶予
これまでは、当事者が裁判所を介さずに解決策を模索している場合であっても、時効完成の間際になると、時効完成を阻止するために無用な訴訟を提起しなければなりませんでした。
しかし、それでは紛争解決の柔軟性や当事者の利便性を損なうことになってしまうため、改正法では、当事者間で権利についての協議を行なう旨の合意が書面または電磁的記録によってされた場合には、時効の完成が猶予されることとされました(改正法151条)。

(3)中小企業法務への影響と対策

前述のように契約に基づく債権は、これまでは消滅時効期間は10年とされていましたが、今回の改正により、原則として5年に短縮されることになります。
たとえば、会社が従業員から、雇用契約に付随する安全配慮義務違反で訴えられる場合や病院が患者から医療過誤で訴えられる場合などは、時効期間は10年とされてきましたが、いずれも消滅時効の完成は主観的起算点から5年となります。不当利得返還請求権の時効期間は、主観的起算点から5年となります。また仮差押のように従来は時効中断事由だったものが、完成猶予事由とされたものもあります。このように、消滅時効に関しては、債権管理の観点から留意する必要があります。


法定利率の改正による留意点

(1)緩やかな変動制の導入

従来、法定利率は固定制とされてきましたが、きわめて低金利状態が続く昨今の市中金利との乖離が大きく、不合理であるとの批判がありました。
そこで、改正法では法定利率を市中金利と連動させて変動制とすることとされました。
もっとも、常に市中金利と連動させることは、債権管理等の事務処理負担が過大なものとなり不都合です。そのため、変動の見直しは一定の要件のもとに3年ごとに行なう緩やかな変動制を導入することとされました(改正法404条3項、4項)。
改正法施行時の法定利率は、年3%です(同条2項)。また、商事法定利率を定める商法514条を削除し、民事法定利率と商事法定利率の統一化を図りました。

(2)中間利息控除の明文化

交通事故などの不法行為等による損害賠償は、将来取得するはずであった逸失利益についても事故時からの請求が可能ですが、その算定の際には、将来得るであろう収入から運用益を控除する必要があります。その控除のことを中間利息控除といいます。
旧法下では中間利息控除に関する規定はありませんでしたが、改正法では法定利率を用いることが明文化されました(改正法417条の2第1項)。同条は不法行為の損害賠償の場合にも準用されます(改正法722条)。

(3)中小企業法務への影響と対策

改正法が施行当初の法定利率を年5%から年3%に引き下げたため、過去の損害に対する遅延損害金額は減少しますが、逸失利益は大きく増加することになります。
たとえば、基礎収入年500万円の有職独身女性(27歳)が就業中に労働災害により死亡した場合、その逸失利益を、生活費控除率30%とし、ライプニッツ係数(将来受け取るはずの金銭を、前倒しで受けるため得られる利益を控除するための指数)を用いて算定すると法定利率年5%の場合、6005万6850円に対し、法定利率年3%の場合、8090万1800円となり、その差は約2100万円にもなります。
企業としてはこのようなリスクに備え、保険金額を増加させるなど対応に注意が必要です。

(続く)

企業実務



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