N.J. HIGH-TEC - NJ Business Online

経理・税務 | エヌ・ジェイ出版販売株式会社


【お知らせ】 実践「経営実学大全」 好評発売中です

Home経理・税務企業実務・特別記事 ≫ 人材育成を主眼に置いた 人事マネジメントの考え方...
公開日:2019年7月24日

人材育成を主眼に置いた 人事マネジメントの考え方 月刊「企業実務」 2019年8月号

髙山正(税理士・社会保険労務士法人未来経営/特定社会保険労務士・中小企業診断士)


このエントリーをはてなブックマークに追加  

なぜ、いままでの目標管理制度が機能しなくなるのか

今後、人事マネジメントに求められる要素とは

具体的な人事マネジメントの実践例


AIやRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)等の進展により、アルゴリズム的な定型業務は今度、縮小していくことが予想されます。
そこで、より創造的・革新的な人材を育成できる人事マネジメントについて考えます。

なぜ、いままでの目標管理制度が機能しなくなるのか

このところ、「これまで人が行なっていた仕事がコンピュータやロボットに取って代わられ、多くの職業がなくなる」ということが話題になっています。
たしかに、今後縮小し、なくなる職業が出てくることは間違いないでしょう。
しかし、同時にそれに代わる新たな職業が出現するはずです。そしてそれらは、いままでにないスキルや能力が求められる仕事だと思われます。よりクリエイティブであったり、より情緒的な仕事だということは、誰にでも容易に想像がつくことでしょう。
そんな時代の変化に伴って、企業の労務管理も変わっていく必要があります。
これまでの従業員を管理統制する制度から、従業員がその創造性豊かな能力を十分に発揮し、より柔軟に能動的に働ける制度を構築していく必要があるのです。
本稿では、その新たな制度のヒントとなる考え方を紹介します。


一般的な目標管理制度

それでは、現在の人事制度はどのようになっているでしょうか。多くの企業で採用されている目標管理制度を例にとってみてみましょう。
目標管理制度は一般的に、次のような手順で行なわれています。
(1)期首に上層部が今年度の全社的な目標を決める
(2)それをブレークダウンして部や課、個人ごとに目標を立てる
(3)半期または四半期に1度、上司と部下が面談し、目標の進捗を確認する
(4)その達成度合いを、賞与や昇給に反映させる
目標の実行性を高めるために、行動計画は詳細かつ具体的に立てることが求められます。そのために、過去の結果や現状から分析をすることもあるでしょう。また、目標の達成度合いが賃金に反映されるため、従業員には目標の計画どおり進めることが、必然的に強制されます。
ところが、これらの仕組みが目標管理制度をおかしな方向へ導いてしまっているのです。


目標を立ててもなかなか実行に移されない

ほとんどの目標管理制度が、現状から目標値を予測し、計画を立てることに多くの時間を費やします。上司と話し合いながら決めることもあるでしょう。
ところが、いざ目標計画が立案され、実行段階に移ると、目標を立てたことそれ自体に満足してしまい、なかなか行動に移されなかったといった経験を、皆さんも一度くらいはしたことがあるのではないでしょうか。
目標を立てることにエネルギーを使い果たし、まだ何もしていないにもかかわらず、あたかも何かを成し遂げたかのように、錯覚してしまうのです。
もっと行動することに時間やエネルギーを投入すべきなのに、計画を立てることに時間を割き、肝心の実行が二の次になってしまうのです。


未来は予測できない

そして、次が重要なのですが、そもそも1年も先の目標や計画を、現在の経営環境から正しく予測することはできないということです。
1年前を振り返ってみてください。いまの現状を正確に予測できたでしょうか。おそらくできなかったはずです。
ひょっとすると、目標とする売上額や利益は達成できたかもしれませんが、その中身は当初の予定とは違ったものになっていたはずです。計画どおり進んでいったわけではないのです。
従来の目標管理は、上層部が期首に立てた目標に沿って、その計画どおり行動することを促します。計画は、常に正しいという前提があるわけです。
しかし、目まぐるしく状況が変化していくなか、未来を現在の延長線上で予測することは不可能です。しかも、変化のスピードは、今後さらに加速していきます。つまり、プロジェクトは短命化し、経営環境の変化はさらに多様性を増していくのです。


ウォーターフォール開発とアジャイル開発

ソフトウェア開発の代表的な手法の1つとして、「ウォーターフォール開発」というメソッドがあります。
ウォーターフォール開発とは、言葉のとおり、滝の水が上から下に落ちるように、事前に定められた計画に沿って、開発を行なっていく手法をいいます。
プロジェクトリーダーが定めたガントチャート(線表)の手順に沿って、1つひとつの期日を決め、着実にゴールに向かって進めていく方法です。途中での仕様変更などがほとんどない、特に長期のプロジェクトにおいては、有効な手法といえます。
一方、ウォーターフォールと対極する考え方に、「アジャイル開発」というものがあります。
アジャイルとは、直訳すると「俊敏な」「すばやい」「柔軟」といった意味になります。大まかな方向性を決め、短期間で試作品をつくり、テスト、修正を繰り返しながら完成までこぎつける開発手法です。計画に縛られるのではなく、柔軟にすばやく、変化に合わせながら最終ゴールを目指します。
横断的なチームがそれぞれ密に連携を取り、必要に応じて、エンドユーザーからのフィードバック も受けながら、開発を進めていきます。じっくり計画を練ることに時間を費やすより、とりあえず試作品をつくってみて、そこからフィードバックを得ることに重点を置きます。
仕様が途中で変更しがちであったり、短い期間のプロジェクトであれば、ウォーターフォールより もアジャイルのほうが適しているといえるでしょう。
そして、現代のソフトウェア開発においては、まさにこのアジャイル型が有効な手段とされているのです(図表1)。

図表1 ウォーターフォール開発とアジャイル開発図表1 ウォーターフォール開発とアジャイル開発

PDCAサイクルとOODAループ

同じように、経営のマネジメントサイクルにおいても、2つの対極する考え方があります。その1つがおなじみの「PDCAサイクル」、そしてもう1つが「OODAループ」です。
PDCAサイクルは、次のような手順で進められます(図表2)。

図表2 PDCAサイクル図表2 PDCAサイクル

(1)経営者層が目標を設定し、それを具体的な行動計画に落とし込む(Plan)
(2)役割を決め、人員を配置し、具体的な行動を指揮命令し、実行に移す(Do)
(3)決められた工程まで作業が進んだら、成果を測定(Check)
(4)その結果を評価し、最後に修正を加える(Action)

そして、また翌期の新たなPDCAサイクルを回し始めます。
このトップダウン型の管理手法は、日本において長年、経営における基本的思想として定着してきました。
それに対してOODAループとは、「観察(Observation)」「情勢判断(Orientation)」「意思決定(Decision)」「行動(Action)」の頭文字を取ったもので、次の4つの段階の意思決定プロセスからなります(図表3)。

図表3 OODAループ図表3 OODAサイクル

(1)観察し、情報を収集する
(2)そこから得た新しい情報を、自身のこれまで蓄積してきた経験や資質、伝統などから統合的に分析し、情勢判断を行なう
(3)情勢判断から具体的行動を決定する
(4)最後に実行に移す

必要であれば、途中のプロセスで観察に戻り、再度情勢判断をし、再び実行に移します。それを何度も高速で行なうのです。
OODAループは、もともと戦場における機動戦を前提につくら れたメソッドです。時々刻々と状況が変化する前線においては、柔軟な判断と迅速な実行が最優先となるからです。
常に状況を確認しながら、すばやく行動に移し、試行錯誤を繰り返しながらも、ゴールに向けて前進していくのです。


PDCAサイクルとOODAループの違い

PDCAサイクルとOODAループのプロセスを対比すると、その違いがよくわかります。
PDCAは計画(Plan)から始まります。計画は、OODAループの意思決定(Decision)に相当します。つまり、PDCAサイクルには、観察(Observation)と情勢判断(Orientation)にあたる部分がなく、いきなり計画からスタートするということです。
OODAループには、計画を生み出すプロセスそのものが計画に組み込まれているのに対し、PDCAサイクルは、計画ありきで計画を生み出すプロセスが考慮されていないのです。なぜなら、PDCAサイクルは、OODAループのような機動戦ではなく、大きく戦況が変化しない消耗戦で有効なトップダウン型の効率追求モデルだからです。


これから求められるのはスピードと柔軟性

ウォーターフォール開発とアジャイル開発、PDCAサイクルとOODAループ、それぞれにはメリットもあれば、デメリットもあります。どちらが優れているといったことではありません。
しかし冒頭にも述べたように、AIやロボティクスなどの進歩により、私たちを取り巻く経営環境は大きく変化しています。いままでのような、決められたことを決められたとおりにこなすだけでは、企業もそこで働く従業員も取り残されてしまいます。
そんな現代の経営環境において、従来型のマネジメント手法ではなく、アジャイル型やOODAループといった変化のスピードにすばやく柔軟に対応できるモデルのほうが、今後ますます重要となってくることは、間違いありません。
ところが、こと人事に関していえば、目標管理制度に代表されるような、硬直的で計画ありきのマネジメント手法が、いまだ多くの企業で採用されているように思われます。
いかにモノを安く効率的に生産するかといった、大量生産が企業の競争優位だったころのモデルが依然として定着しているのです。

(続く)

企業実務



このエントリーをはてなブックマークに追加  



PAGE TOP