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公開日:2019年1月25日

検証!これからどうする「中小企業の賃金設計」 月刊「企業実務」 2019年2月号

大槻幸雄(賃金・人事コンサルタント/株式会社 賃金管理研究所 取締役副所長)


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求められる同一労働同一賃金の現実

限られた原資でモチベーションを維持するための水準と制度設計

賃上げ以外の改定をするときに必要な手続き


働き方改革で「同一労働同一賃金」が求められるなど、中小企業が事業を続けていくためには賃金のあり方も変わっていかざるを得ないだろう。
そこで、中小企業のこれからあるべき賃金制度の設計について考察する
(本稿は2018年12月28日時点の情報に基づいています)

求められる同一労働同一賃金の現実

同一労働同一賃金の意味するものとは

今般の一連の「働き方改革」を目指す取組みのなかで、同一労働同一賃金の実現に向けた法改正は、同一企業内における正規従業員(無期雇用フルタイム労働者) と非正規従業員(パートタイム労働者、有期雇用労働者、派遣労働者)の間の不合理な待遇差の解消を目指す取組みと位置付けられる。

つまり、雇用形態にかかわらない公正な待遇を確保するための法的な枠組みを整備することがその目的である。

これまでも正規従業員と非正規従業員(パートタイム労働者や有期雇用労働者)の待遇差の問題については、労働契約法20条とパートタイム労働法(短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律)8条および9条によって規定されていたが、働き方改革関連法の成立により、有期雇用労働者も保護対象に加えて「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(以下、「パート・有期労働法」)に改題されるとともに、条文も改正された。

また、不合理な待遇差かどうかの具体例として、2016年12月に「同一労働同一賃金ガイドライン案」が示され、これに修正を加えた「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」(以下、「指針」)が2018年12月28日に告示された。均衡待遇および均等待遇の判断に際して考慮すべき3つの要素は、これまでと変わっていない。

(1) 職務内容(業務内容、責任の程度)
(2) 職務内容・配置の変更範囲(人材活用の仕組み・運用等)
(3) その他の事情

この(1)と(2)が正規従業員と同じであれば、同じ待遇が求められ(均等待遇)、正規従業員より不利な扱いをすることはできないが、成果・能力・経験等による賃金差があっても、不利な扱いには当たらないものと解されている。

これに対し、(1)~(3)が正規従業員と違う場合には、(1)から(3)の実態を考慮したうえで、不合理な待遇差が禁止される(均衡待遇)。

パート・有期労働法10条では、パートタイム労働者や有期雇用労働者の賃金について、職務の内容、職務の成果、意欲、能力、経験その他の就業の実態に関する事項を勘案して決定すべきである(努力義務)としている。

このほか、同法11条では教育訓練に関する実施義務や努力義務が、12条では福利厚生施設の利用の機会の付与に関する実施義務が規定されている。

さらに改正法では、待遇に関する事業主の説明義務が大幅に強化されている(14条)。

まず、均衡待遇、均等待遇その他パート・有期労働法に基づいて事業主が行なうべき措置について、パートタイム労働者または有期雇用労働者の雇入れ後速やかに説明しなければならない(14条1項)。また、事業主は、パートタイム労働者または有期雇用労働者から求めがあった場合には、通常の労働者との間の待遇差についてその理由、待遇を決定する際に考慮した事項等について説明しなければならない(14条2項)ほか、このような事項について説明を求めたことを理由とするその労働者に対する解雇その他不利益な取扱いが禁止(14条3項)されることとなった。

同一労働同一賃金に関連する法改正の状況に沿って、今後企業に求められる対応を考えると、まず正規従業員と非正規従業員の待遇差がどうなっているかについて現状を正しく把握することが求められ、その結果に基づいて賃金をはじめとする処遇・待遇の是正に向けた制度の見直しを早急に検討しなければならないこととなろう。

パート・有期労働法の施行日は、大企業が2020年4月1日、中小企業については2021年4月1日とされている。中小企業には2年間の猶予期間があるとはいえ、人手不足の深刻化と労働市場のひっ迫、最低賃金の大幅な上昇等、昨今の労働環境の急速な変化を踏まえれば、一刻も早い対応が望まれよう。

特に、正社員(正規従業員)の賃金制度が未整備な中小企業では、正規従業員と非正規従業員の待遇差について合理的な説明をするための根拠を欠くということでもあり、要注意である。全従業員に占める非正規従業員の割合が大きい卸・小売業、宿泊サービス業や飲食業、医療・福祉などの業種はもとより、それ以外の幅広い業種の会社も含めて、賃金制度を中心とした処遇全般の検証をし、必要に応じて賃金制度の見直しを検討しなければならない。

今日の労働環境と賃金制度

中小企業の人事・労務管理をとりまく環境は大きく変わってきている。なかでも慢性的な人手不足は、更に深刻化するものと考えられる。生産年齢人口(15~64歳)は1995年(ピーク時)の8,726万人から、すでに1,000万人以上が減少し、2040年には6,000万人を割り込むとの試算もなされている。

こうした状況を反映して、新規学卒者の求人倍率も上昇し続けており、新卒採用をしようにもまったく応募者が集まらないという中小企業が増えている。2019年3月卒の大学卒求人倍率は1.89倍であるが(リクルートワークス調べ)、中小企業に限定してみれば実質的におよそ10倍の水準まで跳ね上がることになる。

完全失業率が2.5%を下回っている状況は、ほぼ完全雇用の状態にあると考えてよいし、有効求人倍率はこのところ1.60倍を超え、正社員に限定しても1.13倍に達するから、安定的に従業員を採用することは、かなり難しい状況となっている。

給与水準への影響はどうだろうか。労働需給がひっ迫しているときには採用初任給を中心に給与水準が上昇するのが通例だが、厚生労働省「賃金構造基本統計調査(初任給)」によれば、2018年の大学初任給は20万6,700円と過去最高を記録した。経済成長や景気回復のスピードが非常に緩やかななか、賃金相場だけが急速に上昇するとは考えにくいものの、一方では政府方針を受けて最低賃金の大幅な引上げが毎年進行しており、企業の人件費を押し上げる大きな要因となっている。

政府は、毎年3%の引上げ目標を掲げ、最終的には全国平均で1,000円を目指すとしている。2018年は全国平均で26円引き上げられて874円となったが、このペースでいけば、最低でもあと5年は最低賃金が上がり続けることになる。パートタイム労働者が社員の過半数を占めるような事業場では、今後の総額人件費の上昇に留意しつつも、中長期的な見通しを立てて、対応策を検討しなければならないであろう。

パート・有期労働法のもとでは、賃金が時給で決定されるパートタイム労働者をはじめとする有期契約労働者について、正規従業員と「職務内容」や「職務内容・配置の変更範囲」が同じとなれば、さらに均等待遇・均衡待遇の観点からの処遇改善を進めていかなければならないし、改正法への対応なくして人材の確保・定着は約束されないのである。

今日のような人材獲得競争の時代は始まったばかりであり、さらに同一労働同一賃金の実現という重要な課題も突き付けられているのであるから、中小企業の経営者、人事担当者は常に先々を見据えて、具体的な対策を立てなければならないのである。

全社員共通の賃金決定ルールを

通常、企業の賃金制度は、いわゆる正社員の給与を中心として体系づけられてきた。

いわゆる正社員とは、期間の定めのないフルタイムの労働者であり、長期安定雇用を前提とした労務管理制度の下で仕事を通じて育て、活用し、将来の基幹業務を担当することを期待して採用される労働者のことである。

実際には、中小企業では中途採用者が多いのが普通であるし、平均勤続年数がそれほど比較的短い会社も少なくはないが、それでも雇用の中心となっているのは正社員であり、期間の定めのないフルタイム勤務を前提とした長期安定雇用の従業員である。

会社としては長期的な観点から人材教育・能力開発を施し、計画的に様々な経験を積ませて、将来の幹部候補として育てていくことになる。

これに対して、非正規従業員は特定業務に従事することを前提に採用され、パートタイム労働者の多くがそうであるように定型的業務に従事することが多い。職務遂行能力をいまの仕事に活かすことが求められ、中長期の教育対象とはされないのが通常だ。

しかしながら、働き方が多様化している今日では、短期雇用型の非正規従業員に重要度の高い仕事を任せる機会も増えているし、短時間勤務であっても裁量や責任を伴う職位に就くケースも目立ってきている。

かつてはパートタイム労働者といえば、もっぱら単純作業や定型的な補助業務という職場も多かったが、単純作業がIT技術によって置き換えられ、非正規従業員にも裁量を伴う仕事を与えるのが一般化したことに加え、育児や介護などの家庭の事情から多様な働き方が求められており、高い専門性を有する労働者が望んで短時間勤務の有期労働に従事するケースも今後ますます増えるであろう。

経営者の視点に立って、会社が求める労働者を雇用形態別にまとめたものが図表1である。

図表1 企業が求める労働者を雇用形態別に整理する図表1 企業が求める労働者を雇用形態別に整理する

雇用形態が「有期雇用契約」か「無期雇用契約」か、勤務時間が「フルタイム勤務」か「短時間勤務」かによって4つの象限に区分し、それぞれに自社の従業員を当てはめて整理してみると、従業員の配置状況が理解しやすくなる。

大多数の会社が「無期雇用契約」で「フルタイム勤務」の正規従業員を雇用管理の中心に据えているが、これからの時代に安定的な人材の確保・定着を図ろうと考えるならば、すべての雇用形態を視野に入れて自社にふさわしい人員配置を考えることも、均等処遇・均衡処遇の実現と同様に重要なテーマとなるだろう。

そして、すべての従業員の処遇決定基準となる座標軸、すなわち共通の賃金決定ルールの整備を目指さなければならないのである。

(続く)

企業実務



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