N.J. HIGH-TEC - NJ Business Online

経理・税務 | エヌ・ジェイ出版販売株式会社


【お知らせ】 実践「経営実学大全」 好評発売中です

Home経理・税務企業実務・特別記事 ≫ 人手不足・人件費アップ… 労務倒産を防ぐ「人件費マネジメント」とは...
公開日:2021年9月22日

人手不足・人件費アップ… 労務倒産を防ぐ「人件費マネジメント」とは 月刊「企業実務」 2021年10月号

鈴木 淳(経営コンサルタント/中小企業診断士)


このエントリーをはてなブックマークに追加  

人件費マネジメントの重要性とは

決算書の数値から労働分配率を計算する

ケーススタディで見る労働分配率管理の落とし穴

労働分配率を改善する具体策とは


同一労働同一賃金や最低賃金の引き上げなど、企業の労務関連費の負担はいよいよ増す傾向にあります。そんななか、体力に乏しい中小企業を労務倒産から守るために役立つのが、「人件費マネジメント」という視点です。
労働分配率から適正人件費を導き出す人件費マネジメントの考え方を解説します。

人件費マネジメントの重要性とは

働き方改革で高まる会社の労務負担

「労務倒産」という言葉があります。人手不足や人件費の高騰など、労務に関する問題が主な原因となって倒産に至る状況を指す言葉です。
特に近年の「働き方改革」によって、企業の労務関連の負担は、ますます重くなる傾向にあります。労務倒産は、必ずしも人件費負担のみの問題ではありませんが、「いくら稼いでも、人に関係するコストに利益が消えてしまう」一面を表わしていることに違いはありません。
労務関連費用が利益を圧迫するような状況に陥らない、あるいは、そのような状況から脱するためには、「財務管理と人事労務管理の両面から、自社の経営体質を強化する」ことが大事です。特に中堅・中小企業は、生産性の高い組織運営の実現に向けて、人材活用のあり方を抜本的に見直すことに、いまこそ真剣に向き合う必要があります。

「人件費マネジメント」とは

今回のコロナ禍で、多くの会社が売上の急激な減少に見舞われ、人件費の支払いが満足にできなくなる事態に陥りました。テナント料や工場・倉庫の賃借料等はもちろん、人件費が固定費として経営に重くのしかかり、その結果、廃業を選択せざるを得なかった会社も多くあります。
また、感染の収束が見通せないなか、多くの会社において、様々な方策を駆使して人件費を圧縮する動きがみられます。
しかし、単に圧縮を試みるだけでは、限界があります。
大事なのは、限られた人件費原資をいかに効果的・効率的に配分し、生産性向上に結びつけていくか、ということです。
そのための方策を立案し、実行することが、「人件費マネジメント」という考え方です。

「内部から崩れる企業」にならないためには

他方で、傍目には順調に売上を伸ばし、市場シェアを拡大しているようにみえても、「内部から崩れる」リスクを抱えた企業が多く存在します。成長を急ぐあまり、市場シェアや企業規模の拡大に気をとられ、経営体質を悪化させてしまっている企業です。
経営者が自社の成長を求めるのは当然のことですが、そのためにもいったん立ち止まり、自社にとって適正な人件費総額はいくらかを把握することが大切です。そのうえで、適正な人件費原資を効果的・効率的に配分すれば、経営体質を強化しつつ、企業を成長させることができます。
では、どのようにすれば、自社にとって適正な人件費総額を把握することができるのでしょうか。その指標となるのが、「労働分配率」です。
労働分配率とは、「限界利益」(売上高から変動費を引いたもの)に占める人件費の割合をいいます(図表1)。

図表1 人件費マネジメントに関連する経営指標図表1 人件費マネジメントに関連する経営指標

「潰れやすい会社」と「潰れにくい会社」

会社には、「潰れやすい会社」と「潰れにくい会社」があります。両者の違いは、売上高の大小ではなく、売上高に占める利益や固定費の割合によって生じます。
いくつかの経営指標を使って、具体的にみていきましょう。

(1) 利益率が高い会社とは
まず、利益率について確認しておきます。
 「損益分岐点売上高」は、よく用いられる経営指標の1つで、損益がちょうどゼロになる売上高のことです。損益分岐点売上高よりも売上高が多ければ黒字になり、少なければ赤字になります。
計算式は次のとおりです。

損益分岐点売上高=
     固定費÷限界利益率


この計算式に出てくる「限界利益率」とは、売上高に占める限界利益の割合です。売上高の増減によって、限界利益がどれだけ増減するかを表わします。
固定費は売上高に関係なく一定なので、限界利益率の増減は、そのまま会社の営業利益や経常利益の増減に大きく影響を及ぼします。つまり、限界利益率が高いほど、会社の利益率も高いということになります。
限界利益率や売上総利益率が高い会社は、一般に高収益型であると同時に、他社との競合面でも優位な立場にある会社です。「潰れにくい会社」である反面、経営体質に何か課題があっても、つい見過ごしてしまう可能性が高いともいえます。

(2) 固定費率が高い会社とは
次に、固定費についてみていきましょう。ここでは、労働分配率を使って、固定費のなかでも「人件費」に焦点を当てていきます。
すでに述べたとおり、労働分配率は限界利益に占める人件費の割合を示す指標です。計算式は、次のとおりです。

労働分配率=人件費÷限界利益

限界利益は、売上高から変動費を引いたものですから、限界利益に占める人件費(固定費)の割合が大きいほど、人件費(固定費)負担が大きく、収益性の悪い会社(潰れやすい会社)とみることができます。
ここで注意しないといけないのは、「人件費負担が大きい会社」が、必ずしも「賃金水準の高い会社」ではないということです。もちろん、賃金水準の高さが原因である場合もありますが、それはむしろ少数派です。
それよりも、仕事量や企業収益に比べて従業員数が多く、それに付随して広いオフィスが必要となり、その賃借料や工場・倉庫の賃借料などの諸経費も大きくなり、結果として、人件費を含む固定費が利益を圧迫している企業が大半であるといえます。

「労働分配率」による冷静なコスト管理を

会社の業績が好調で、右肩上がりに売上が推移していく限りは、多少、限界利益率が低下しても、人件費負担が大きくなっても、それ以上に売上を伸ばすことで何とかなるでしょう。
しかし、いったん売上が鈍り、横這いから下落傾向に入ったら、たちまち過大な人件費が収益を圧迫し、会社は一気に危機的状況となります。
そのような深刻な状況に陥る前に、売上高や従業員数の増減に伴う経営体質の変化を指標でとらえ、冷静な目で、常に監視しておくべきです。
そのために使える有効な指標が、「労働分配率」です。

(続く)

企業実務



このエントリーをはてなブックマークに追加  



PAGE TOP