N.J. HIGH-TEC - NJ Business Online

経理・税務 | エヌ・ジェイ出版販売株式会社


【お知らせ】 実践「経営実学大全」 好評発売中です

Home経理・税務企業実務・特別記事 ≫ 新「テレワークガイドライン」により中小企業が行なうべき対策とは...
公開日:2021年5月31日

新「テレワークガイドライン」により中小企業が行なうべき対策とは 月刊「企業実務」 2021年6月号

坂本 直紀(坂本直紀社会保険労務士法人/特定社会保険労務士・人事コンサルタント)


このエントリーをはてなブックマークに追加  

新「テレワークガイドライン」の内容と留意点

中小企業における対策のポイント


厚生労働省は、新しい生活様式に対応し、テレワークのさらなる導入・定着を図ることを目的として「テレワークガイドライン」の改定を行いました。
新ガイドラインの主な内容を確認し、中小企業における対策を解説します。


新「テレワークガイドライン」の内容と留意点

新たに策定された「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」(以下「新ガイドライン」という)の主なポイントは、次のとおりです。


テレワーク導入に際しての手続きと留意点

テレワークを制度として適切に実施するには、あらかじめ労使で十分に話し合い、適切にルールを定めることが重要です。
具体的には、導入目的、対象業務、対象となり得る労働者の範囲、実施場所、テレワーク可能日(労働者の希望、当番制、頻度等)、申請等の手続き、費用負担、労働時間管理の方法や中抜け時間の取扱い、通常または緊急時の連絡方法等のルールを定めます。

(1) 対象業務
テレワークの実施が難しい業種・職種であっても個別の業務によっては、実施できる場合があります。
したがって、「テレワークに向かない」と安易に結論づけるのではなく、管理職側の意識を変えたり、業務遂行方法の見直しを検討することが望ましいです。そのうえで、オフィス出勤の労働者のみに業務が偏らないように留意します。

(2) 対象者等
パートタイム・有期雇用労働法では、正規雇用労働者と非正規雇用労働者間で不合理な待遇差を設けてはならないとされています。このため、非正規だからという理由で、テレワーク対象者から除外しないよう留意します。
また、新入社員、中途採用社員および異動直後の社員は、上司や同僚等に聞きたいことを抱えていたり不安が大きい場合もあるため、コミュニケーションの円滑化に特段の配慮をすることが望まれます。

(3) 導入に当たり望ましい取組み
テレワーク推進に当たり、図表1の取組みを行なうことが望ましいとされています。

図表1 望ましい取組み例図表1 望ましい取組み例

労務管理上の留意点

(1) テレワークにおける人事評価制度
テレワークは、個々の労働者の業務遂行状況や、成果を生み出す過程で発揮される能力を把握しづらい面がありますが、人事評価については、企業がその手法を工夫し適切に実施することが基本です。
たとえば、上司は、部下に求める内容や水準等をあらかじめ具体的に示し、評価対象期間中は必要に応じてその達成状況につき、労使共通の認識をもつ機会を柔軟に設けます。行動面や勤務意欲、態度等の情意面を評価する企業は、評価対象となる具体的な行動等の内容や評価方法をあらかじめ「見える化」して示します。
一方、人事評価の評価者にも、評価者訓練等の機会を設けます。
なお、テレワーク実施者が時間外、休日や深夜のメール等に対応しなかったことを理由に、不利益な人事評価を行なったり、オフィス出勤者を高く評価すること等は、適切な人事評価ではありません。

(2) テレワークに要する費用負担の取扱い
テレワークで、労働者に過度の負担が生じることは望ましくありません。自社の状況に応じたルールを定め、就業規則等において規定しておくことが望ましいです。
なお、労働者に情報通信機器、作業用品その他の負担をさせる場合、労働基準法に基づき、こうした事項について就業規則に規定する必要があります。
また、在宅勤務で労働者の通信費が増加したり、自宅の電気料金等が増加する場合は、費用のうち業務に要した実費の金額を、在宅勤務の実態(勤務時間等)を踏まえて合理的・客観的に計算し、支給することも考えられます。

(3) テレワーク状況下における人材育成
テレワークを推進するうえで、社内教育等をオンラインで実施するとともに、テレワーク導入初期あるいは機材の新規導入時などは、必要な研修等を行なうことが有効です。
テレワークを行なう労働者につき、社内教育や研修制度に関する定めをする場合は、当該事項について就業規則に規定する必要があります(労働基準法89条7号)。

(4) テレワークを効果的に実施するための人材育成
企業は、各労働者が自律的に業務を遂行できるよう、仕事の進め方の工夫や社内教育等によって人材の育成に取り組むとともに、管理職による適切なマネジメントが行なわれることが重要であるため、管理職のマネジメント能力向上にも取り組むことが望ましいです。

テレワークのルールの策定と周知

(1) 労働基準関係法令の適用
テレワークを行なう場合も、労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法等の労働基準関係法令が適用されます。

(2) 就業規則の整備
テレワークを円滑に実施するには、使用者は労使で協議して策定したテレワークのルールを就業規則に定め、労働者に適切に周知することが望ましいでしょう。

(3) 労働条件の明示
労働者に就労開始日からテレワークを行なわせる場合は、就業場所として、自宅等、テレワークを行なう場所を明示する必要があります。また、労働者が就労の開始後にテレワークを予定している場合は、使用者はテレワークを行なうことが可能である場所を明示しておくことが望ましいです。

(4) 労働条件の変更
労働契約や就業規則で定める勤務場所や、業務遂行方法の範囲を超えてテレワークを行なわせる場合は、労働者本人の合意を得たうえで労働契約の変更が必要です。
なお、労働者本人の合意を得ずに労働条件の変更を行なう場合は、労働者の受ける不利益の程度等に照らして合理的なものと認められる就業規則の変更および周知が必要です。

様々な労働時間制度の活用

(1) 労働基準法に定められた様々な労働時間制度
労働基準法には、様々な労働時間制度が定められており、すべての労働時間制度でテレワークの実施が可能です。一方で、テレワークを実施しやすくするために労働時間制度を変更する場合は、各々の制度の導入要件に合わせて変更することも可能です。

(2) 労働時間の柔軟な取扱い
(1) 通常の労働時間制度および変形労働時間制
通常の労働時間制度および変形労働時間制は、始業および終業の時刻や所定労働時間をあらかじめ定める必要があります。
ただし、テレワークにより必ずしも一律の時間に労働する必要がないときは、所定労働時間はそのままとし、始業および終業の時刻の自由度を認めることも考えられます。
このような場合は、使用者があらかじめ就業規則に定め、テレワークを行なう際に労働者が始業および終業の時刻を変更できます。
(2) フレックスタイム制
フレックスタイム制は、労働者自身が始業および終業の時刻を決定できる制度です。労働者が仕事と生活の調和を図ることが可能となるメリットがあります(図表2)。

図表2 フレックスタイム制のメリット図表2 フレックスタイム制のメリット

(3) 事業場外みなし労働時間制
事業場外みなし労働時間制は、労働時間の算定が困難なときに適用され、使用者の具体的な指揮監督が及ばない事業場外で業務に従事する場合に活用可能な制度です。
そして、テレワークでは、次のaとbをいずれも満たす場合に制度を適用できます。
 a 情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと
次の場合は、いずれもaを満たすと認められ、情報通信機器を労働者が所持していることのみをもって、制度が適用されないことはないとされています。
・勤務時間中に、労働者が自分の意思で通信回線自体を切断することができる場合
・勤務時間中は通信回線自体の切断はできず、使用者の指示は情報通信機器を用いて行なわれるが、労働者が情報通信機器から自分の意思で離れることができ、応答のタイミングを労働者が判断することができる場合
・会社支給の携帯電話等を所持していても、その応答を行なうか否か、または折り返しのタイミングについて労働者において判断できる場合
 b 随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行なっていないこと
使用者の指示が、業務の目的、目標、期限等の基本的事項にとどまり、1日のスケジュール(作業内容とそれを行なう時間等)をあらかじめ決めるなど作業量や作業の時期、方法等を具体的に特定するものではない場合

(3) 業務の性質等に基づく労働時間制度
裁量労働制および高度プロフェッショナル制度の対象労働者について、テレワークの実施を認めることで、労働する場所も、労働者の自由な選択に委ねることが考えられます。

テレワークにおける労働時間管理の工夫

(1) テレワーク下の労働時間管理の考え方
テレワークでは、使用者による現認ができないなど、労働時間の把握に工夫が必要となります。
一方で、情報通信技術の活用等によって、労務管理を円滑に行なうことも可能です。使用者がテレワークの場合における労働時間の管理方法を、あらかじめ明確にしておくことが望ましいでしょう。

(2) テレワーク下の労働時間の把握
「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」も踏まえた対応として、次の方法が考えられます。
(1) 客観的な記録による把握
使用者が労働時間を把握する原則的な方法として、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基に、始業および終業の時刻を確認すること等が挙げられます。
(2) 労働者の自己申告による把握
情報通信機器を使用しても、使用時間の記録が労働者の始業および終業の時刻を反映できない場合も考えられます。この場合、労働者の自己申告も考えられますが、労働時間を簡便に把握する方法としては、たとえば、1日の終業時に、始業時刻および終業時刻をメール等にて報告させるといった方法を用いることが考えられます。

(3) 労働時間制度ごとの留意点
労働時間制度に応じて、次のような点に留意することが必要です。
・フレックスタイム制
使用者は労働者の労働時間につき、適切に把握します。
・事業場外みなし労働時間制
必要に応じて、実態に合ったみなし時間となっているか労使で確認し、使用者はその結果に応じて業務量等を見直します。
・裁量労働制
必要に応じて、業務量が過大または期限の設定が不適切で、労働者から時間配分の決定に関する裁量が事実上失われていないか、みなし時間と当該業務の遂行に必要とされる時間とに乖離がないか等について、労使で確認し、使用者はその結果に応じて業務量等を見直します。

(4) テレワーク特有の事象の取扱い
(1) 中抜け時間
テレワークでは、一定程度労働者が業務から離れる時間が生じることが考えられます。このような中抜け時間については、使用者は把握することとしても、把握せずに始業および終業の時刻のみを把握することとしても、いずれも可能です。中抜け時間の取扱いは、たとえば次の内容が考えられます。
・中抜け時間を把握する場合は、図表3のとおり、休憩時間として取り扱い、終業時刻を繰り下げたり、時間単位の年次有給休暇として取り扱う
・ 中抜け時間を把握しない場合は、始業および終業の時刻の間の時間について、休憩時間を除き労働時間として取り扱う

図表3 中抜け時間を把握する方法図表3 中抜け時間を把握する方法

(2) 勤務時間の一部についてテレワークを行なう際の移動時間
たとえば、午前中のみ自宅やサテライトオフィスでテレワークを行なった後、午後からオフィスに出勤する場合が考えられます。
こうした場合の就業場所間の移動時間について、労働者による「自由利用が保障されている」時間は、休憩時間として取り扱うことが考えられます。
一方で、テレワーク中の労働者に、使用者が具体的な業務のために急きょオフィスへの出勤を求めた場合など、使用者が労働者に対し業務に従事するために必要な就業場所間の移動を命じ、その間の自由利用が保障されていない場合の移動時間は、労働時間に該当します。
(3) 休憩時間の取扱い
労働基準法では、原則として休憩時間を一斉付与することを規定しています。
ただし、テレワークを行なう労働者につき、労使協定により一斉付与の原則を適用除外とすることも可能です。
(4) 時間外・休日労働の労働時間の管理
時間外・休日労働をさせる場合は、36協定の締結、届出や割増賃金の支払いが必要です。
また、深夜労働の場合は、深夜労働に係る割増賃金の支払いが必要です。
(5) 長時間労働対策
テレワークは、次の点に留意する必要があります。
・労働者が使用者と離れた場所で勤務をするため、相対的に使用者の管理の程度が弱くなる
・業務に関する指示や報告が時間帯に関わらず行なわれやすくなり、労働者の仕事と生活の時間の区別が曖昧となり、労働者の生活時間帯の確保に支障が生ずるおそれがある
このような点に鑑み、長時間労働による健康障害防止を図ることや、労働者のワークライフバランスの確保に配慮することが求められます。
テレワークにおける長時間労働等を防ぐには、次のような手法が考えられます。
・メールの送付等の抑制
・システムへのアクセス制限
・時間外・休日・所定外深夜労働についての手続きの明確化
・長時間労働等を行なう労働者への注意喚起
・その他(勤務間インターバル制度)

テレワークにおける安全衛生の確保

(1) 安全衛生関係法令の適用
安全衛生管理体制を確立し、職場における労働者の安全と健康を確保するために必要となる具体的な措置を講ずることを事業者に求めています。
テレワークの場合も、事業者は関係法令等に基づき、同様の措置を講ずる必要があります。
このとき必要に応じて、情報通信機器を用いてオンラインで措置を実施することも有効です。
なお、労働者を雇い入れたときまたは労働者の作業内容を変更し、テレワークを初めて行なわせるときは、テレワーク作業時の安全衛生に関する事項を含む安全衛生教育を行ないます。

(2) テレワークを行なう際のメンタルヘルス対策の留意点
テレワークでは、労働者が上司等とコミュニケーションを取りにくく、上司等が労働者の心身の変調に気づきにくい面があります。
このため、健康相談体制の整備や、コミュニケーションを活性化するための措置を実施することが望ましいでしょう。
また、「心の健康づくり計画」の方針を決める際には、テレワークで生じやすい状況を念頭に置いたメンタルヘルス対策についても、衛生委員会等による調査審議を参考にし、計画的に取り組むことが望ましいです。

(3) 自宅等でテレワークを行なう際の作業環境整備の留意点
事務所衛生基準規則、労働安全衛生規則、「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」等と同等の作業環境となるよう、事業者はテレワークを行なう労働者に教育・助言等を行なうことが有効です。
新ガイドラインで示されている「自宅等においてテレワークを行う際の作業環境を確認するためのチェックリスト【労働者用】」(以下「自宅等チェックリスト」という)を使用して、労働者自身に現在の作業環境に問題はないか確認させてもよいでしょう。

(4) 事業者が実施すべき管理に関する事項
事業者は、労働者がテレワークを初めて実施するときは、新ガイドラインで示されている「テレワークを行う労働者の安全衛生を確保するためのチェックリスト【事業者用】」(図表4)を活用し、作業を行なわせるとともに、定期的に確認していくことが望ましいでしょう。

図表4 テレワークを行う労働者の安全衛生を確保するためのチェックリスト【事業者用】図表4 テレワークを行う労働者の安全衛生を確保するためのチェックリスト【事業者用】

まず、「安全衛生管理体制」「安全衛生教育」「作業環境」「健康確保対策」「メンタルヘルス対策」「その他(コミュニケーション、緊急連絡体制)」についてチェックし、法定事項(◎の欄)につき、確実に実施できているか確認します。
コロナ禍ではあるものの、健康診断はいわゆる「3つの密」を避け、十分な感染防止対策を講じた健康診断実施機関で実施することとされていますので、健康診断の実施状況についても併せて確認します。

テレワークにおける労働災害の補償

テレワークを行なう労働者も、労働契約に基づき使用者の支配下にあることで生じた災害は、業務上の災害として労災保険給付の対象となります。ただし、私的行為等業務以外が原因であるものは、業務上の災害とは認められません。
労働者等は、この点を十分理解していない可能性もあるため、使用者はこの点を十分周知することが望ましいです。
また、使用者は、情報通信機器の使用状況などの客観的な記録等を適切に保存し、労働者が負傷した場合の災害発生状況等を正確に把握できるよう、当該状況等を可能な限り記録しておくことを労働者に周知することが望ましいです。

ハラスメントへの対応

テレワークでも、ハラスメントを行なってはならない旨を労働者に周知啓発する等、ハラスメントの防止対策を十分に講じる必要があります。

(続く)

企業実務



このエントリーをはてなブックマークに追加  



PAGE TOP