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公開日:2020年12月18日

中小企業の「同一労働同一賃金」適用に向けた実務対応策 月刊「企業実務」 2021年1月号

小岩 広宣(社会保険労務士法人ナデック 特定社会保険労務士)


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■同一労働同一賃金とは

■最高裁判決の実務への影響を読む

■中小企業の実務対応のポイント


2021年4月から「同一労働同一賃金」が中小企業へも適用となります。
2020年10月には非正規雇用労働者の賃金に絡んだ最高裁判決が出され、その影響も考慮する必要があります。同一労働同一賃金の適用に向けて中小企業に求められる実務対応を解説します。


同一労働同一賃金とは

2020年10月は、13日に大阪医科薬科大学事件とメトロコマース事件、15日に日本郵便事件の判決が出され、最高裁の判決ラッシュとなりました。
大阪医科薬科大学事件は主にアルバイト職員の賞与、メトロコマース事件は主に契約社員の退職金、日本郵便事件は主に契約社員の諸手当と休暇制度について判断されました。いずれも正社員と非正規雇用との待遇差が論点となっていたことから、同一労働同一賃金についての最高裁の最新の判断として注目されました。

働き方改革の目玉としてスタートした「同一労働同一賃金」(雇用形態に関わらない公正待遇の確保)は、大企業では2020年4月から施行されており、中小企業は2021年4月から施行されます(派遣労働者については企業規模を問わず一律2020年4月から施行)。
同一労働同一賃金の対象となるのは、パートタイム労働者、有期雇用労働者、派遣労働者です。
具体的には、パートタイム労働者と有期雇用労働者についてはパートタイム・有期雇用労働法で、派遣労働者については労働者派遣法で規定され、具体的な取扱いを定めた指針として「同一労働同一賃金ガイドライン」が公開されています。

そもそも同一労働同一賃金というと、「同じ仕事をしている人に同じ賃金を支払う」という考え方を意味すると思われがちですが、それは西欧型の同一労働同一賃金です。日本ではいわゆる正社員との比較において同じ企業内における非正規雇用の待遇の改善をはかるという意味で使われています。

同一労働同一賃金の目的は不合理な待遇差の解消

同一労働同一賃金の「目的」について、ガイドラインの前文では、「雇用形態又は就業形態に関わらない公正な待遇を確保」するために、「同一の事業主に雇用される通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間の不合理と認められる待遇の相違及び差別的取扱いの解消並びに派遣先に雇用される通常の労働者と派遣労働者との間の不合理と認められる待遇の相違及び差別的取扱いの解消を目指す」と述べられています。
つまり、正社員等の正規雇用労働者と、契約社員やパート等の非正規雇用労働者との間に存在する基本給や手当、福利厚生等をめぐる「不合理な待遇差の解消」が目的で、あらゆる格差を解消して完全な均等待遇を図ることを目指しているわけではなく、必ずしも同じ仕事をしている労働者が例外なく同じ賃金でなければならないわけではありません。
したがって、両者に待遇差が存在する場合に、何をもって「不合理」と判断するかが非常に重要となります。

不合理とされる判断基準とは

待遇差が「不合理」と判断される基準について、ガイドラインの「基本的な考え方」には、「この指針は、通常の労働者と短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者との間に待遇の相違が存在する場合に、いかなる待遇の相違が不合理と認められるものであり、いかなる待遇の相違が不合理と認められるものでないのか等の原則となる考え方及び具体例を示したものである。事業主が、第3から第5までに記載された原則となる考え方等に反した場合、当該待遇の相違が不合理と認められる等の可能性がある」と書かれています。
すなわち、ガイドラインに示されたのはあくまで「原則となる考え方及び具体例」であり、ここに示されていない論点については、「労使により、個別具体の事情に応じて待遇の体系について議論していくことが望まれる」とされています。事例に当てはまらない具体的な論点については、国は労使の自主性を尊重し、折衝や協調に期待しているというのが、ここで示されている考え方です。

労働条件の違いが不合理であった場合は、法律に違反するとしてただちに労働条件の内容が引き上げられるわけではなく、「待遇の相違が不合理と認められる等の可能性がある」とされます。
つまり、正社員と非正規雇用との間の差が許容範囲かどうか、個別に判断するということであり、この判断の主体はもちろん裁判所です。労働局などから指導・勧告といった行政指導が行なわれることもありますが、具体的な労働条件については裁判によって確定されることになります。

非正規雇用労働者の待遇の不合理性の判断については、パートタイム・有期雇用労働法で図表1のように規定されています(派遣労働者についても労働者派遣法でほぼ同様の規定が置かれています)。第8条が「均衡待遇」、第9条が「均等待遇」について定められた条文です。

図表1 非正規雇用労働者の待遇の不合理性の判断にまつわるパートタイム・有期雇用労働法の規定図表1 非正規雇用労働者の待遇の不合理性の判断にまつわるパートタイム・有期雇用労働法の規定

非正規雇用労働者の待遇が不合理であるか否かは、次の3つの要素から判断されます(図表2)。

図表2 非正規雇用労働者の待遇の不合理性の判断要素図表2 非正規雇用労働者の待遇の不合理性の判断要素

(1) 職務の内容……非正規雇用労働者が現在従事している業務の内容と責任の程度のことを指す
(2) 変更の範囲……将来にわたって(1)が変更されたり、配置の変更がされるかどうかを指す
(3) その他の事情……労使慣行や労働組合との折衝などを指す

「均衡待遇」(不合理な待遇差の禁止)では、(1)職務の内容、(2)変更の範囲、(3)その他の事情を考慮して不合理な待遇差が禁止され、「均等待遇」(差別的取扱いの禁止)では、(1)職務の内容、(2)変更の範囲が同じ場合には差別的取扱いが禁止されることになります。
中小企業も2021年4月から待遇の相違の内容・理由の説明義務が課されているため、非正規雇用労働者から求めがあった場合、事業主は正社員等との待遇の相違の内容・理由を説明しなければなりません。

職務の内容等が非正規雇用労働者に最も近いと判断される正社員等との間で待遇差の内容・理由を説明することが基本となり、資料を活用して口頭により説明することが求められます。この義務に反する場合には、行政による裁判外紛争解決手続(行政ADR)の制度の対象ともなるため、十分に改正法のコンプライアンスを意識した事業運営をはかることが肝要だといえるでしょう。

(続く)

企業実務



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