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「ベッドサイド」をデバイス化し医療と入院生活の質の向上に貢献する(株式会社ヴァイタス・社長 曽根伸二氏)

キラリと光るスモールカンパニー

掲載内容は取材当時のものです。
現在の情報と異なる場合がございますので、あらかじめご了承ください。


入院患者にとってベッドは治療のみならず、生活の場になるが、これまで娯楽や情報を得る手段はベッド脇のテレビのみであるケースがほとんどだった。

ヴァイタスはベッドサイドに設置する端末システムを開発、インターネットやメールの利用、入院や治療に関するビデオコンテンツの配信などを通して医療と患者の生活の質向上を実現。
世界的にも最先端を行くシステムに発展しつつある。

◇    ◇    ◇

インターネット上には様々な病気の情報や患者の体験談などがあふれている。病気と闘い、入院や手術を迎える患者にとって、こうしたネットの情報はありがたいものだろう。しかし、いざ入院すると、ベッドの周りにはレンタルかプリペイド式のテレビがあるだけで、医師から病気や検査、手術について説明を受けて、わかりにくかったり、新たな疑問が湧いてもなかなか聞けないのが実際のところではないだろうか。

いったいいつ頃退院できるのか、費用はどれくらいかかるのか、今後の仕事や生活に支障はないのか、当人にとって心配のタネは尽きない。最近ではノートパソコンを持ち込む患者も増えたそうだが、複数人の病室ではキーボードの音などが周囲の迷惑になる場合もある。

ヴァイタスはこうした患者に向けて、情報や娯楽などの人が快適さを感じるアメニティ環境を提供する「ベッドサイド情報端末システム」を開発し、喜ばれている。いつでもインターネットが使えるため、ホームページの閲覧やメールの送受信はもちろん、ネットショッピングも可能だ。

病院などが制作したビデオをはじめとしたコンテンツも収録されており、入院や検査、手術の説明や注意、投薬情報、病院スタッフの紹介、会計の仕方や院内の避難経路、電子カルテや検査画像までを患者はベッドにいながら見ることができ、病院ごとにその内容を工夫している。さらに、テレビ番組や映画・音楽などのメディアもある。

端末はシンクライアントという出力と入力だけを行なう装置である。アプリケーションやデータはサーバで保管・処理されるため、データが端末からコピーされたり、改ざんされる危険もなく、セキュリティ性能は高い。キーボードは標準装備されておらず、リモコンで操作するので、パソコンに慣れていない人でも使いやすい。世界的にも最先端を行くベッドサイド端末だ。

「病院内のIT化は少しずつ進んでいますが、それは病院側ばかりでベッドサイドは抜け落ちていました。ベッドサイド情報端末システムによって、ベッド自体がデバイスになり、様々な情報を取り出すことができます。医療システムとつなぐことで、患者からの情報をフィードバックして治療したり、家族にわかりやすく表示するなど、情報インフラとして活用することも可能です。私はこれをベッドサイドの“ハブ(ネットの中心)化計画”と呼んでいます」
と、ヴァイタスの曽根伸二社長(47歳)は語る(以下、発言は同氏)。

離床センサーと組み合わせ 患者を見守るシステムも

日本では、病院内のテレビは事業者からレンタルする仕組みになっている。患者はリース契約を結んだり、プリペイドカードを購入してテレビを見ることになる。ヴァイタスのベッドサイド情報端末も、基本的にはレンタル事業者を通して病院にリース、販売している。現在、42病院に約7,000台の納入実績を誇る。同社の収益源は、台数当たりに定額で受け取る回線使用料と保守料である。さらに、病院などからの委託でコンテンツ制作や配信メニュー作りなども手がける。利用する入院患者の負担は1日300~500円だ。

ベッドサイド情報端末は患者に対する情報提供だけでなく、病院側にとっても安全性の向上や効率化につながる。たとえば、同社の「医療安全支援システム」は看護師などのIDと患者が身につけている情報管理用のリストバンドなどをスキャナーで読み取り、薬や入院スケジュールが間違っていないか確認することができる。

ベッド上の患者の状態を感知する「離床センサー」も開発中で、現在、最終的な精度の向上と検証段階に来た。このセンサーはベッドのフレームに張りつけるだけで、微量なたわみから患者の状態を読み取り、ナースコールや携帯情報端末・スマートフォンなどに通知することで緊急対応できる。

院内事故で最も多いのが歩行中あるいはベッドからの転倒や転落だ。転倒転落による医療・介護費は国内で年間7,300億円にも達する。離床センサーがあればすばやく異常に気づくことができる。

北海道函館市の高橋病院は、早くから同社の端末を導入。電子カルテや体温・脈拍・血圧、投薬・注射内容の情報、検査結果、月間スケジュールなどを参照できるシステムをヴァイタスとともに構築した。転倒転落防止システムもあり、家族と一緒に患者が転倒転落の危険性をアセスメントし、病院側がその結果を共有するとともに、危険性に応じた注意喚起ビデオがベッドサイド端末から自動的に流れるようになっている。

同病院では離床センサーを活用した「転倒転落防止見守りシステム」も開発中である。センサーで離床を検知するとカメラが作動し、ナースステーションや患者家族のスマートフォンなどに通知し、患者の状況をモニターで確認できる。院内だけでなく、「地域見守りサービス」といった形で院外、地域社会にも展開できれば家族や医療・介護従事者の負担軽減につながるだろう。

医療看護支援ピクトグラムのデジタル化で看護師を支援

ヴァイタスにとってこれから重要なアプリケーションになると曽根社長が考えているのが、「医療看護支援ピクトグラム」だ。

これは、東邦大学医学部看護学科の横井郁子教授やパラマウントベッドなどがメンバーとなっている「ベッドまわりのサインづくり研究会」が08年に開発したコミュニケーションツールである。患者の移動や排泄、食事、飲み物などに関して、周囲がどのような配慮をするべきか、24種類のピクトグラムのサインでわかりやすく表示する。たとえば、移動には歩行器が必要か車いすが必要かとか、食事では飲食禁止か朝食のみ禁止かなど、病院側だけでなく、家族や面会者なども情報共有できる。

同研究会では、マグネット式でベッド周辺に貼るピクトグラムを作ったが、病床の多い病院ではかなりの個数が必要になる。そこで、ヴァイタスに要請があり、デジタル化してベッドサイド端末に組み込むことになった。ピクトグラムは常時表示する必要性から、別途小型のモニターを用意。病院の医療情報システムと連携してカンファレンスの結果がすぐに反映される。非接触ICカードによる患者認証システムで、院内でベッドを移動してもすぐに対応できる。

「急性期の患者は状態が刻々と変化するので、チームで治療に当たる場合、情報共有が必須です。医療看護支援ピクトグラムのシステムによって看護の仕事に直接お役に立てるようになったと自負しています」

すでに500床規模の2病院にピクトグラムのシステムを納入し、さらに400床の病院とも契約が進んでいる。

病院向けVOD配信システムからベッドサイド情報端末システムを発想

曽根社長は、運送会社や計量機器メーカーを経て、1992年にGE横河メディカルシステムに入社。CTやMRIなどの大型医療機械の販売、その後、医療画像ネットワークシステムの営業を担当し、2001年にワンビシアーカイブスという総合情報マネジメント会社に転職した。

「医療画像ネットワークは当時、4~5億円もかかる高額なシステムでした。しかし、高額にもかかわらず、記録するメディアが数年で変わるので、お客様に予備で購入してもらったメディアが無駄になってしまうのが申し訳なかった。それなら、データのアウトソーシングを進めるべきではないかと思い、その提案を受け入れてくれたワンビシアーカイブスに移りました」

同社に新設された医療情報部の担当部長に就任すると、医療機関とデータセンターをつなぐ医療提携システムの構築に励んだ。だが、社長の交代などで思うように仕事ができなくなり、独立を決意。04年にCMRソリューションズ(2か月後にヴァイタスに社名変更)を社員1名と設立した。

初仕事は、病院向けのビデオオンデマンド(VOD)による番組配信システムだった。ある人を介してTBSから話があり、高知県の病院でVOD配信システムを作った。これが、患者にアメニティ環境を提供するサービスにつながった。曽根社長が情報通信と医療に通じていたからこそ、病室のベッドサイドに新市場を見出したのだろう。ベッドサイドのテレビにネット機能を付け加えるベッドサイド情報端末を考えるうちに、医療と患者の生活の質向上や業務支援も手掛けたいと思うようになった。

そこで、経済産業省の新連携対策補助金支援制度を活用して05年に専用端末第1号を開発するが、端末にテレビチューナーも内蔵していたことから、コンピュータにトラブルが起こると、テレビもビデオも見られないという苦情が殺到した。そこで、2年半かけて、シンクライアントの新システムを開発。経営は苦しかったものの、曽根社長の熱意と事業計画を認めた大手ベンチャーキャピタルなどの投資で乗り切った。

その後も離床センサーや新アプリケーションの開発費がかさみ、経営状況は厳しかったが、ここに来て展望が開けてきた。1つはピクトグラムであり、もう1つは病院へのDPC(診断群分類)の普及だ。DPCとは病名や病状ごとに決められた診断群分類点数による医療費の定額払い方式だ。DPCでは治療や投薬の管理、患者への情報提供が重要であり、ベッドサイド端末が必要なツールとなる。さらに離床センサーを含めたシステムは在宅介護や介護施設にも広がるだろう。

「患者向けインターフェイスのデファクトスタンダードを作りたい」という曽根社長の夢が実現に向けて動き出している。

月刊「ニュートップL.」 2011年7月号
吉村克己(ルポライター)


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