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大震災で工場・事務所が全滅。危機を乗り越え、雪下ろし不要の塗料を開発(KFアテイン株式会社・社長 川又貴仁氏) 月刊「ニュートップL.」 2012年7月号

吉村克己(ルポライター)

キラリと光るスモールカンパニー


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仙台市に本社を置くKFアテインは、大震災による津波で工場が水没し設備機器が全滅した。スキー用ワックスの技術を活かし、船底の海洋生物付着を防ぐ船底塗料添加剤を製造販売していたが、製造不能となり、売上は激減。だが、屈することなく、雪を滑らせ着雪を防ぐ新しい除雪車用塗料を開発。雪下ろし不要の屋根用塗料添加剤も開発し、業界で注目を集めている。


◇    ◇    ◇


sc18_2ショッキングなデータがある。消防庁の調べによれば2011年11月から12年3月末までに雪崩、屋根の雪下ろし、除雪、落雪などによる死者は132名に達する。雪下ろしや除雪中の事故だけで95名が亡くなり、その7割近くが65歳以上の高齢者だ。昨冬は豪雪で、重軽傷者だけでも2,000名近くに上った。

「こうした状況を黙って見ているわけにはいきません。私たちは自社の製品で東北の人たちの役に立ちたいのです」 仙台市に本社を置くKF(ケーエフ)アテインの川又貴仁社長(40歳)は、自身の思いについて語る(以下、発言は同氏)。

同社がことしから本格販売する屋根用塗料添加剤「陸王」は、屋根に降り積もる雪が自らの重みでどんどん滑り落ち、降雪期に屋根の雪下ろしが不要になるという画期的な添加剤だ。

ローソクなどにも使われるパラフィンワックスを主原料に無公害の無機物を配合した独自開発の製品である。塗膜表面に滑り性と撥水性と防汚性の効果が生じ、雪も氷も水も滑り落ちて屋根にたまることがない。

「既存の屋根用塗料はシリコンが主流で撥水性は高いのですが、気温が下がり、屋根の温度が氷点下になると撥水効果が出ず、雪の影響で長くて5年しかもちません。陸王は氷点下でも常温と同じ滑り効果があり、8~9年は性能を維持します」

同社は昨冬、秋田県の豪雪地帯で人の住んでいない別荘を使い、実証実験を行なった。滑り効果が持続することが確かめられ、雪下ろしは1回もする必要がなかった。

すでに大手屋根材メーカーが陸王の導入を検討中で、実証実験にも立ち会った。別の塗料メーカーも陸王をテスト中で、効果が確認されれば、屋根用塗料の添加剤として採用される可能性が高いという。

さらに、山形県内大手の塗料卸販売・スガタ商事などと提携し、今年度中に陸王を添加した塗料を使った屋根塗装を150~200棟ほど施工予定だ。

施工業者を絞り込み、塗装法や安全性などの指導を行なったうえで施工する。陸王を塗装した屋根はとても滑りやすくなるため、人が登ると危険だからだ。屋根からの落雪を防止する“雪止め”などもあらかじめ撤去する必要がある。

「山形県での取り組みが順調に進めば、それをモデルに東北各県で販売を委託する会社と、施工業者数社と提携し、普及していきたいと考えています」


滑り効果を活かし除雪に転用

雪の付着を防ぐ性質を活用して、昨年9月には除雪車用の塗料「雪王」を発売した。

前面に装着したショベルで雪を押しのける除雪車では、除雪中、ショベルに付着した雪が氷塊になって作業効率が落ちる。たった1回の除雪作業で塗膜がはがれることもあった。だが、ショベル部分を雪王で塗装すると雪や氷が付着しない。宮城県所有の除雪車を使った実証実験では、13回の作業で塗膜が少しはがれ始める程度だった。作業効率が上がり、除雪車の燃費も向上したという。

塩水を噴霧したり、衝撃を加える実験も行なったが、雪王は既存の塗料に比べて剥離(はくり)しにくいことが確かめられている。

「通常の塗装には下塗りと上塗りが必要ですが、雪王は下塗りが不要。除雪車の耐久性も上がり、経費削減にもつながると考えています」

現在、北海道、岩手、山形、新潟、長野の各県に働きかけ、雪王の導入が始まっている。

同社が想定した雪害対策以外にも、陸王や雪王を活用したいという問い合わせもある。たとえば、送電線や鉄塔などに応用されるかもしれない。

現在、雪王も陸王も注文は順調に伸びているのだが、製造が追いつかず、すべての受注に応えきれていない状況である。同社は、本社工場をもともと海岸線に接する仙台市宮城野区蒲生地区に置いていた。昨年3月の東日本大震災によって津波の被害を受けて工場と事務所が水没し、製造設備を失ってしまったのである。

「ものすごい揺れに見舞われ、事務所内のキャビネットなどがみな倒れました。2人の社員を外に連れ出して、呆然と周囲の様子を見ていると、近くの9階建ての屋上に避難していた人が大声で『津波だ、逃げろ!』と叫んで教えてくれたんです。あわてて逃げ出しましたが、腰を抜かした女子社員が身動きできなくなっていた。彼女を背負い、泥だらけになって転がるようにして急いで、声をかけてくれた人がいた9階建てのビルに逃げ込みました。津波が迫っていて、あと少し、逃げるのが遅れたら命がなかったと思います」

無事にビルの屋上にたどり着くと、そこには100人ほどの人が避難していた。道路を見下ろすと、津波が濁流となってビルの周囲を流れていた。川又社長と社員たちは屋上に留まり、水が引くのを確認して、深夜1時頃に避難所に移動した。

震災を乗り越えたった1人で事業再開

sc18_3翌朝、川又社長は会社の様子を確かめるために訪れ、その惨状に言葉を失った。

「設備などすべてが見るも無惨な状態で、これでは廃業するしかないと思いました。私と社員の自宅もひどい被害を受け、事業再開どころではなかった」

川又社長が身を寄せた避難所では、食糧が十分に行き渡らず、震災から3日後、社員の実家を頼って山形県に避難したという。そこで、ようやくまともな食事をとることができ、初めて今後について考える気持ちのゆとりが生まれた。これまで会社を応援してくれた人たちのことが次々に脳裏に浮かび、廃業するわけにはいかないと気力が湧いてきたという。

支援者の1人である宮城県産業技術総合センターの担当者に電話して、「事務所を貸してほしい」と要請すると、即座に「何とかするから心配するな」と力強い返事をくれた。県内の産業支援を手がける、みやぎ産業振興機構の担当者も「やれることはやるから、がんばれ」と励ましてくれた。

「助成金を得ることはできませんでしたが、多くの方が様々な形で支援を表明してくださったので、事業を再開する決心ができました」

だが、社員の1人は震災の影響で体調を崩して退職。もう1人も家庭の事情で退職した。金融機関から5,000万円の借り入れがあったが、2年間の返済猶予を認めてもらえた。その後、仮設事務所を無料で借りることもでき、現在は仙台市宮城野区に事務所を置き、同泉区にある産業技術総合センター内の一室を間借りして工場兼研究所としている。しかし、十分な製造設備が整備できないまま、川又社長1人での再出発となった。

震災前、KFアテインを支えていた製品は船底にフジツボなどの海洋生物が付着するのを防ぐ船舶塗料用添加剤「海王」と、スキー・スノーボード用ワックスであった。海王も陸王や雪王と同様の滑り効果をもち、船の燃費も向上する。海王が売上の6割を占め、スキー・スノーボード用ワックスが4割を占めていたが、津波によって三陸地域の船の多くが流失した影響で、海王の売上はほぼなくなった。

「スキーワックスだけでは事業を維持できません。やむにやまれず、以前から構想していた海王の横展開を早めました。除雪車用の雪王を開発して昨年9月に発売。続いて陸王を開発しました」

現在、同社には量産能力がないため、塗料メーカーに委託して生産しているが、委託では利益が残らない。そこで、製造装置を調達するべく、ミュージックセキュリティーズというファンド会社が運営する「被災地応援ファンド」を通して2,000万円を募集している。

このファンドは大震災の被災企業を支援するために創設されたもので、1口で5,000円が寄付、5,000円が投資となり、手数料500円を含めて1万500円から参加できる。すでに食品加工会社などがこのファンドで復興資金を調達。現在、KFアテインのファンドに集まった金額は約550万円で、徐々に増えているという。

震災により売上は激減したものの、昨年末頃から順次、新たに技術者2人、営業1人を採用し、体制を整えつつある。

川又社長自身は塗料の専門家ではなく、技術者でもなかった。秋田生まれで小さい頃からスキーに親しみ、中学まではクロスカントリーの選手だった。姉は国体に出場するほどのスキー選手だったという。そのため、スキー板にワックスを塗ることは日常的だった。高校に入学すると硬式野球に熱中。野手のレギュラーとして活躍したが、3年生の春に左手首を骨折し、チームは夏の県大会決勝まで進んだが敗退。自身は骨折の影響で野球を断念せざるをえなかった。

専門学校を卒業後、しばらく企業に勤めた後、もともと起業家をめざしていたため独立。1999年から個人事業として、飲食店をはじめとした様々なサービス業を経験した。

東北随一の塗料メーカーをめざす

sc18_4そのうち、自社製品を手がけたいという思いが募り、05年にKFアテインを設立。幼い頃から慣れ親しんだスキー・スノーボード用ワックスの製造を始めた。通常のスキーワックスはパラフィンに撥水性の高いフッ素などを添加するが、寒雪や氷に対してはあまり効果がない。

川又社長は独学で勉強し、フッ素に代わる添加剤を見出して工夫を重ね、雪と氷でもよく滑るワックスを開発した。業界の評価は高く、バンクーバー五輪クロスカントリー日本代表チームにも採用された。東北地方などの中学・高校のクロスカントリーチームなども導入し、インターハイ優勝者もいるという。

「スキーワックスだけでは面白くない。滑る技術を使って、東北初の塗料メーカーになろうと考えました。世の中には滑らない塗料は実在しても、滑る塗料という発想はなかったのです。アテインという社名には英語で、『並の人では成し得ないことを成し遂げる』という意味があります。人と違うことに挑戦して成功させたいのです」

KFアテインのKは川又社長、Fはファミリーを指す。川又社長のもと、仲間で独創的なモノづくりをしたいという願いが込められている。

だが、ワックスと塗料は似て非なるもの。化学の知識をもたない川又社長は専門書を呼んだり、専門家に相談したりしながら2年間、懸命に勉強を重ねて研究し、08年に船底塗料の添加剤として海王を発売した。

翌年には、添加剤ではなく船底塗料として「ハイパー海王」を発売。宮城県初の塗料メーカーとなった。通常の船底用塗料には、海洋生物の付着を防ぐために若干毒性のある物質を用いるが、川又社長は完全無公害塗料をめざして開発した。

だが、最終製品である塗料と、塗料に加えることで効果を発揮する添加剤とは異なる。製品である塗料として示した性能を保証しなければならなかった。ハイパー海王は無公害ながら、一部の藻類の付着を防ぐことができず、発売中止を余儀なくされたという。

川又社長は、知人の経営者などに塗料の専門家を紹介してくれるように頼んで歩いた。そうして出会ったのが現在、非常勤役員として同社の製品開発を支えている長尾五郎氏だ。長尾氏は日本ペイントに38年在籍した自動車用塗料の設計開発の専門家で、技術部長まで務めた。10年4月頃から手伝ってもらうようになり、1~2週間に1回、同社を訪れる長尾氏に、川又社長は2日間みっちり技術指導を受けている。

「当初は長尾さんによく叱られました。ただ、私が素人だからこそ従来にない発想ができることは認めてもらえました」

長尾氏の助力もあって雪王、陸王の製品化が早まり、来年、塗料版の海王を再び試作する。

「震災以降、周囲への感謝の気持ちが強くなった」という川又社長は、支援者へ恩返ししたいという強い思いを胸に秘め、勝負の年に臨んでいる。

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