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化粧料の成形・充填専用装置で世界の化粧品会社を魅了する(株式会社南陽・社長 嵐田光雄氏)

キラリと光るスモールカンパニー

掲載内容は取材当時のものです。
現在の情報と異なる場合がございますので、あらかじめご了承ください。


口紅やアイシャドウ、ファンデーションなどのメイクアップ化粧品用の材料を圧縮成形したり、容器に充填する専用装置を手がける南陽は、従業員わずか16名の会社ながら、国内外の大手化粧品メーカーがその技術力を高く評価するオンリーワン企業だ。

特許を20件以上保有し、世界初の技術や製品も数多い。ニーズを先取りした技術開発力などについて嵐田光雄社長に聞いた。

◇    ◇    ◇

男性にはあまり縁がないだろうが、最近のアイシャドウは目元を立体的に見せるために複数の色を組み合わせて使う。
パウダータイプの商品ではパレット容器に色鮮やかなアイシャドウが何色も並んでいる。従来、複数色のアイシャドウを容器に充填するには仕切り(パーティション)が必要だったが、南陽は仕切りなしで混色せず充填する画期的な装置を開発した。

また、口紅は従来の生産方式では中身の材料(化粧料)をいったん成形してから容器に差し込んでいたが、これでは手間もコストもかかる。
しかし、直接容器に充填すると泡が生じて不良品になってしまう。そこで、化粧料を充填するノズルにオイルを循環させて温度調節し、泡を発生させず充填する装置を開発した。これによって成形充填コストが三分の一になった。

例を挙げればきりがないが、様々な技術開発によって南陽は化粧品の成形充填方式を変え、従業員16名の会社ながら世界の化粧品メーカーに装置を納入してきた。

「かつて化粧品メーカーは自前で成形充填装置を開発していましたが、自前主義ではコストがかかる。とくにバブル崩壊後はコスト削減要求が高まり、各メーカーから問合せがたくさん舞い込むようになりました。私は長く化粧品のOEM会社に勤めていたので、その経験が活きました」と同社の嵐田光雄社長(65歳)は語る(以下、発言は同氏)。

世界初のデジタル制御の圧縮成形機を開発

アイシャドウ、口紅、ファンデーションなどを「メイクアップ化粧品」と呼ぶ。矢野経済研究所の「化粧品市場に関する調査結果2010」によれば、09年度の化粧品市場2兆2,840億円のうち、スキンケア市場約46%に対して、メイクアップ市場は23%程度だが、見た目の華やかさをアピールできるだけに化粧品メーカーにとって重要な戦略的商品だ。
そのため、メイクアップ化粧品の容器や充填方法にはこだわりが強く、要求水準も高い。

粉末の化粧料の圧縮は油圧プレスを使うことが一般的であったが、嵐田社長はサーボモーターによるデジタル制御を世界で初めて取り入れた。

「油圧プレスでは1~5トンの力がかかるので、固くすることは得意です。しかし、化粧品は柔らかく固めないといけないため、微妙な力加減が必要なんです」

デジタル制御ならば化粧料に合わせて最適の条件で圧縮・成形し、そのデータを記録することができる。いったん、システムができあがれば、安定生産が可能になる。

冒頭の仕切りなしの多色充填を可能にした装置が容器の裏側から化粧料を注入する「バック・インジェクション・マシーン(BIM)」だ。これは同社オリジナルの装置名だが、いまや世界の化粧品業界の共通語になっている。

特許を20件以上取得しており、現在も新たな特許申請の準備中だ。嵐田社長は、特許は技術を守るだけでなく、「顧客満足度を上げるための手段である」と言う。

「特許をもっていれば、納めた装置が他社の技術に抵触する問題も起きないので、お客のリスクを低減できる。欧米、韓国、台湾などでも特許を取得しており、海外では当社の技術力の保証になります」

同社の得意先はイヴ・サンローランやメイベリンなどを傘下にもつ世界最大の化粧品会社・ロレアルグループをはじめ、エイボン、エスティローダーから日本の大手化粧品会社まで広がり、海外売上比率は20~25%に達する。

南陽の競合メーカーは海外にもあるが、品質への自信もあって、基本的に値引き販売はしない。代金決済は、米国だけはドルだが、他の地域は欧州でもアジアでも円を用いているという。

「競合他社と当社の製品を比べたかったので、海外の取引先の工場や研究所を見せてもらいました。見比べることで、わが社の技術に自信を深めましたが、取引先の担当者も『技術的には南陽が最上位。どんどんビジネスを広げたほうがいい』とアドバイスしてくれました。粉末の圧縮成形については、いまのところ世界一だと自負しています」

韓国や中国では同社のコピー製品も出回っているが、「大手の化粧品会社はそれらの製品を買いません。コピー製品とケンカしても時間の無駄。もっといいモノをつくればいい」と言う。

骨を埋めるつもりだった会社の社長の協力を得て独立をはたす

なぜ、海外の大手企業が南陽を頼ってくるのか。嵐田社長にその秘密を聞いた。

「世界の大手企業は日本に研究所をかまえています。われわれはその研究所と情報交換をしているんです。その情報が本国に伝わり、担当者が実際に装置を見に来る。ダイレクトメールよりこうした口コミが大きいですね。日本の中小企業はもっと売ることと技術力をアピールしたほうがいい」

嵐田社長は山形県南陽市の出身で、社名もその地名からとった。

高校卒業後、1964年に同じ地元出身の平健吉氏が経営していた宮内化工という化粧品OEM製造の中小企業に就職。

当時、川崎市にあった同社で、嵐田社長は様々な経験を積んだ。宮内化工では、化粧料の製造や、容器への充填の仕事に携わったが、幼少の頃から機械いじりが好きだった嵐田社長は、化粧料を自動的に多色充填する装置を独自に開発。特許も取得した。

実質的な工場長まで務めるようになったが、平社長の後継ぎである子息が入社し、その教育係として仕事や技術を5、6年かけて教え、一人前になる頃に、身を引くべきだと考えるようになった。

「好きな会社だったので、骨を埋めるつもりだったんですが、私がいると息子さんが伸びないのではないかと思いました。辞めたいと伝えると平社長が『申し訳ないことをしたが、会社を起こすときには必ず支援する』と約束してくれました」

嵐田社長は18年間勤務した同社を退職、機械メーカーに転職した。その際、平社長は、はなむけに充填機2台の注文を出してくれた。「2台で1,000万円ぐらいの仕事ですから、そんな持参金つきで転職する人間も珍しかったでしょう」と笑う。

2年後、嵐田社長の開発した充填機がコンスタントに売れるようになり、新しい機械の開発に取り組ませてほしいと社長に申し出た。ところが、「売れているんだから、このままでいい」との答えだった。

「その言葉を聞いたときに、独立しようと決心したんです」

84年、39歳で嵐田社長は独立。平社長に相談すると、「その言葉を待っていたよ」と資本金の半分以上を用意し、本社内の土地・建物も貸してくれた。従業員3名を採用して会社を設立。だが、平社長は甘えを許さないためだろう、「3年経って黒字にならなかったら会社を畳め」と条件をつけた。

幸い、新たに開発した充填機が売れ、1年目から黒字になった。順調に注文が入るようになると、平社長が「自社工場を建てたらどうか」と勧めるので、自宅を担保に銀行から個人で1億5,000万円を借りて近くに工場を建設。やがて、宮内化工が本社を移転することになり、創業の地を南陽が買い取って工場にした。嵐田社長はいまもその際の借金を個人的に返済し続けているが、運転資金などを銀行から借りたことは一度もないという。

「中小企業で一番仕事ができるのは社長。その社長が金策でかけずり回っていては仕事にならない。もちろん、いざというときのためにも銀行さんとはおつき合いいただいていますが、『うちはいくらまで借りられる?』と聞いて『5,000万円まで』などと確認するだけです」

カレー粉成形にも広がる南陽の独自技術

いま、南陽の技術が化粧品業界から異分野へ広がりつつある。5年前に「イプロス」という技術者のための情報サイトに登録したところ、200社以上から問合せが殺到した。食品、薬品、自動車、機械業界などの大手も多かった。

そのなかで、食品メーカーからカレー粉の圧縮について相談が寄せられた。業界初の油性分を減らした「カロリーオフ」の粉末状カレー粉を鍋に入れたときに溶けるように固めたいという。圧縮成形の際に、カレー粉に小さな穴を開けた多孔質の状態で固める方法を提案し、装置を納めた。このカレー粉は実際に商品化された。

また、粉末飲料を固形状にすることや、セラミック粉末の圧縮などの依頼も受けた。現在も5~6社と仕事が進んでいるという。なかにはネオジウム磁石の圧縮成形の仕事もあり、食品から工業製品まで南陽の技術の応用範囲は広い。

顧客に受け入れられる新技術や装置を開発するにはどうしたらいいのかと問うた。

「顧客がほしがっているものを相手に言われる前に探り出し、開発することです。半歩先のものを作る。そうすると、お客は『これがほしかった』と直観的に思う。そのインパクトは絶大です。潜在ニーズを探り出すにはアンテナを張り、お客が何か変わったことをやっていないか、動きがないかを注視しなければなりません。仕事以外にも何でも関心をもつ。好奇心と、ちょっと違った角度で見る工夫が大切ですね」

嵐田社長のあふれる好奇心こそが同社の技術開発の源なのだろう。

月刊「ニュートップL.」 2011年3月号
吉村克己(ルポライター)


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