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公開日:2011年4月6日

ハゲタカとの闘いに勝利 サッポロホールディングス会長・村上隆男 月刊「ニュートップL.」 2011年4月号

清丸惠三郎(ジャーナリスト)

トップリーダーたちのドラマ


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肩の荷を降ろすという言葉があるけれども、この日のサッポロホールディングス社長の村上隆男ほど、この言葉のリアリティを実感した経営者はいないだろう。

drama3_0011か月半ほど前の2月10日、村上は都内日比谷の会見場で、多くの記者、カメラマンに囲まれていた。会見は2部に分かれており、第1部はサッポロホールディングスの社長交代、第2部はサッポログループとポッカグループの経営統合に向けた協議開始についてであった。

主役はともに村上だった。通常、社長交代となると新社長に視線が行きがちなものだが、記者たちの質問は6分4分で村上に向いていた。

この時点でまだ2か月近い社長在任期間を残していることもあったけれども、2005年3月末の就任から3期6年の在任期間は、村上にとってもサッポロホールディングスにとってもきわめて厳しい時代だった。その危機を見事に、と言うにはもう少し先を見ないといけないが、ともかく村上の粘り強い経営手腕により乗り切ったということがあったからである。


外資ファンドと熾烈な攻防

村上の直面した難局の1つは、就任直前の04年10月に判明した、アメリカの投資ファンド、スティール・パートナーズによるサッポロ株の大量取得問題であった。スティールは07年2月にTOBによって3分の2まで買い増すことを表明、その後買い取り目標を3分の1に下げたものの、役員を自陣営から送り込みサッポロへの経営関与を強めようとするスティールと、村上を筆頭とするサッポロ経営陣との攻防は熾烈を極めた。

しかも悪いことに、スティール問題に振り回されている間に、グループ内の最主力事業であるビール事業で足元をすくわれる事態が発生した。

サッポロは長らくビール業界2位の座を堅持してきた。ところが3位のアサヒが「スーパードライ」で躍進を開始すると、長年、2位に安住してきた経営の弱点が露呈、ドライブームに惑わされ主力商品「黒ラベル」を終売するといった混乱を見せた。流通、消費者の批判を受けてほどなく「黒ラベル」は復活したが、昔日の勢いはなかった。

サッポロはその後、発泡酒、そして第三のビールに先鞭をつけるが、果実をうまく手にしたのは資金力もあり、マーケティング・宣伝力に一日の長のあるキリンだった。08年にサッポロはついにサントリーにも逆転され、全国ブランド4社体制になって以降、初めての4位転落となったのである。

記者は村上が社長に就任してしばらくして、恵比寿ガーデンプレイス内にあるホテルで会食する機会があった。長年、製造畑を歩いてきた技術者らしく、飾らない人柄で好感が持てた。サッポロ初の技術系社長だった。東大農学部農芸化学科の出身ということから、「キリンの荒蒔(康一郎、当時社長)さんと同窓ですね。アサヒを猛追している荒蒔さんのように手腕を発揮してくださいよ」と声をかけると、「大先輩のようにはいくかどうかわかりませんが、がんばります」と答えが返ってきたのを覚えている。

ちなみに荒蒔は茨城県出身、村上は幼少期を父親の故郷栃木県で過ごしている。ともにどこか土の匂いがする経営者だ。

この席ではスティールの出方がまだわからないということでさほど話題にならず、むしろ村上が商品化を推進した第3のビール「ドラフトワン」に話題が集中し、村上も終始ご機嫌だった。だが先にも触れたように、キリンが「のどごし〈生〉」を出すと、出だし好調だった「ドラフトワン」は失速。一方でスティールの攻勢は強まるばかり。

村上は、マスコミの前に姿を現すことはほとんどなくなった。想像するに、胃の痛くなるような日々が続いたにちがいない。


企業体質を強化し業績回復

このスティールの攻勢に対し、サッポロ側、つまり村上の対処法は業績を上げて、スティール以外の株主の支持を取り付ける以外になかった。2月の記者会見で、スティール問題について感想を求められた村上は、「この6年間の在任期間のうち、スティールに関わって費やした時間は2割ほどに過ぎません」とそっけなく答えていた。直接的にはその通りだろうが、実際はすべてがスティールにつけ込まれないための、企業体質の筋肉質化と業績回復にエネルギーが注ぎ込まれたと言ってよかろう。

結果、売上は増減を繰り返し波があったが、経常利益は2010年度末まで4期連続増益を維持し、しかも前期に関して言うと、「麦とホップ」の好調などで6期ぶりに国内のビール売上数量を前年対比プラスに持ち込んだ。対してスティールは他の株主の支持も得られず、短期収益狙いの投資家の資金引きあげもあり、結局、昨年末までにすべての持ち株を売却、サッポロから手を引くことになった。

村上にとってきわめて望ましい形で事は推移し、まさに肩の荷を降ろしたはずと外からは見られるだろう。しかし現実はそう簡単ではない。

国内ビール市場は収縮を続けており、ライバル各社は海外シフトを強めている。飲料部門をはじめ、多角化も急だ。出遅れたサッポロもこの日、果汁飲料に強みを持つポッカと経営統合することを明らかにし、またそれに先立ち経済が拡大基調にあるベトナムでのビール生産に乗り出すことを発表している。

上條努新社長にバトンタッチはするが、こうした課題をクリアし、サッポログループの将来を磐石なものにして初めて、村上は本当の意味で肩の荷を降ろすことができるはずだ。

サッポロにとり、時代はまだ強い逆風の中にある。冒頭、「もう少し先を見ないと危機を見事に乗り切ったと言えない」と書いたのは、それゆえだ。

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