平田法律事務所
(神奈川県S社)
売買などの契約は、まず一方が契約を申し込み、他方がそれを承諾することで成立します。
売買契約の場合、最低限、売買対象(商品明細)と売買価格(代金額)について、申込みと承諾によって売主・買主の意思が合致する必要があります。そのほか、納入条件(引渡時期・方法)や代金支払条件(支払時期・支払方法)などについての意思の合致(合意)も求められます。
契約の申込みの前段階として「申込みの誘引」があります。これは申込みを誘う通知にすぎませんので、誘いに応じて申込みがあったとしても、それだけでは契約は成立しません。改めて申込みに対する承諾が必要です。
たとえば、業者から商品カタログが送られてきて注文書用紙が同封されているような場合は注文(すなわち売買契約の申込み)を誘引する意味になり、注文書が契約の申込み、商品の発送が承諾ということになります。
一般に、契約の申込みを受けたとしても、それを承諾するかどうかは自由です。ガス、電気の供給契約などの特別の理由による例外を除いて、承諾を強制されることはありません。
また、申込みに対して、承諾するか否かの返事をする必要はありません。承諾の返事をしない限り契約は成立しませんので、申込みを無視する形で断わることもできます。
申込者が勝手に商品を送りつけて、「返事がなければ承諾とみなす」「購入しなければ返送せよ」と言ってきても効力はありません。
前述したように、諾否の返事を含めて、申込みを承諾するかどうかは自由です。ただし、商法上、企業取引の迅速性の要請に基づき、一定の場合には申込みに対する諾否の通知義務が課されています。
すなわち、商人が平常取引をする者から、その営業の部類に属する契約の申込みを受けたときは、遅滞なく、申込みに対する諾否の通知を発しなければなりません。この通知を発することを怠ったときは、その商人は、契約の申込みを承諾したものとみなされます(商法509条1項、2項)。
ここで「商人」とは、商行為を業とする者のことです。株式会社などの会社が事業として行なう行為(事業のためにする行為を含む)は商行為とされますので、会社は商人に該当します(商法4条、会社法5条)。
「平常取引をする者」とは、従来から継続的な取引関係があり、今後も取引の反復が予定される者のことです。
また、「営業の部類に属する契約」とは、商人が営業上、日常の業務として集団的・反復的に行なう契約のことです。
言い換えれば、申込みの内容が条件面で合理的なものか否か、などの諸状況から判断して、申込みに対する沈黙が承諾を意味すると当然に予想されるタイプの取引のことです。これらの要件を満たしている、諾否の通知義務が課される取引については、契約の申込みに対して遅滞なく通知することを怠ったときは、承諾したものとみなされます。したがって、申込みの内容どおりの契約が成立したことになります。
一般に、契約の申込みと同時に物品が送りつけられても、申込みに対して承諾をしない限り契約は成立しませんから、受け取った物品を返送したり保管する義務を負うことはありません。
ただし、商法上、企業取引関係を迅速かつ円滑に処理し、取引当事者の信頼関係を保護するため、一定の場合には物品の保管義務が課されています。
つまり、商人がその営業の部類に属する契約の申込みを受けた場合、その申込みとともに受け取った物品があるときは、申込みを拒絶したときであっても、申込者の負担で物品を保管しなければなりません(商法510条)。
ここで「営業の部類に属する契約」というのは、商人が営業上、日常の業務として集団的・反復的に行なう契約のことです。
また、「申込みとともに受け取った物品」というのは、申込みと相前後して送付された物品のことであって、必ずしも申込みと物品とが同時に到着した場合に限られません。
前述の諾否の通知義務の場合と異なり、物品の保管義務については「平常取引をする者」という限定がありません。何ら法律関係がなく、平常取引関係もない者に対してまで、保管義務を課すのは行き過ぎであるとの批判があります。
ご質問のケースの場合には、健康食品を送ってきた業者と御社の間には従来から継続的な取引関係があったわけではないと思われます。
また、健康食品の購入が御社の日常の業務として集団的・反復的に行なわれてきたわけでもないでしょうから、代金の支払義務も物品の保管義務もありません。