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公開日:2011年2月18日

退職者から譲渡時の価格で自社株を買い取ることの可否 月刊「企業実務」 2011年2月号

平田法律事務所

実務相談室


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[問]当社では、従業員持株会を設けており、従業員が退職するときには、その株を取得したときと同じ金額で買い取っています。しかし、今回退職する15年間自社株を持ち続けてきた従業員が「会社の規模は大きくなっているのに、株の買取り金額が変わらないのはおかしい」と言い、持株を手放しません。この従業員の株を取得金額で買い取ることはできるのでしょうか。

(千葉県I社)

[答]閉鎖型の会社の従業員持株制度における「退職などで会員資格を失ったときは取得価格で売り渡す」旨の規約の有効性を認めるのが判例の大勢です。ただし、一定の前提条件を満たしていることが必要です。


ポイント解説

売渡強制条項

株式の譲渡に会社の承認を必要とする閉鎖型の会社でも、従業員持株制度が導入されていることが多いようです。
制度導入の目的は主として従業員の福利厚生ですが、それとともに、従業員の定着の確保、勤労意欲の向上、企業に対する忠誠心の培養、労使協調などの効果を目指すものです。

会員資格は従業員(ないしそれに準ずる者)に限られており、退職や死亡の場合は、会員資格を失うとされています。

閉鎖型の会社の従業員持株制度では、ほとんどの場合、従業員が持株会会員資格を失ったときには、取得価格で持株会(ないし会社)に株式を譲渡する定め(売渡強制条項)が設けられています。
その理由は2つあります。1つは、会社(取締役会)は、退職従業員に株式の譲渡を強制することまではできないからです。

もう1つは、譲渡価格は会社と退職従業員との協議で決める(協議が整わなければ、申立てにより裁判所が決定する)ことになっているため、高価になることがあるからです。
それでは、買戻し資金の調達の関係で、持株会の運営に支障をきたしかねません(高価だと他の従業員にその株をまわすことが困難になります)。

そうならないように、取得価格による売渡強制条項が定められているのです。
この条項については、主に売渡価格(=取得価格)が株式の時価より低いことを不満として、退職従業員から訴訟が提起されることも珍しくありません。


参考となる判決

この問題に関する判例を挙げておきます。

・名古屋高裁平成3年5月30日判決。
最高裁平成7年4月25日判決退職に際しては、従業員持株制度に基づいて取得した株式を取得価格(額面の1株50円)で取締役会の指定するものに譲渡する旨の合意がされていたケースです。

退職従業員らが、この合意は無効であるとして、会社に対して株券を引き渡すよう求めて、訴訟を提起したのです。
名古屋高裁は「会社にとって持株従業員が会社の発展に寄与することを期待できる利益がある」「持株従業員にとっても株式を額面価格で簡便に取得できるほか、相当程度の利益配当を受けることができる」「退職のつど個別的に譲渡価格を決めるのは実際上困難である」等の理由で、この合意を有効として退職従業員らの請求を退けました。最高裁もこの判決を正しいと認めて上告を棄却しました。


判例の大勢

ここで挙げた判決をはじめとして、判例の大勢は、従業員が退職などで会員資格を失ったときに持株会ないし会社に取得価格で譲渡する旨の規約(ないし合意)を有効としています。その主な理由は次のようなものです。

  1. 従業員持株制度の趣旨や規約の内容を承知したうえで自らの意思で入会したものである
  2. 株式を時価より安い価格(額面価格など)で取得している
  3. 配当を受け取るなどの利益を得ている
  4. 定款で株式譲渡に取締役会の承認を要するとされており、もともと市場での自由な売買は予定されていない
  5. 未上場株について退会のつど譲渡価格を定めることは事実上むずかしい

取得価格での買戻しの可否

閉鎖型の会社の従業員持株会を運用していくためには、退職従業員から取得価格(ないしそれに準ずる価格)での買戻しを組み込まざるを得ません。
他方、従業員は取得価格に相当する金額の保証(元本保証)はされているのであり、貯蓄型の制度といえます。

会社からの奨励金や株式配当などで元本保証の上乗せがあれば、取得価格での売渡強制条項も有効であると考えてよいでしょう。

ご質問の場合も、取得価格での買取りは可能であると思います。

ただし、貴社の従業員持株制度について明確な規約(ないし合意)があること、その従業員が制度の趣旨や規約の内容を承知したうえで自らの意思で入会したものであること、取得価格の保証に加えて奨励金や株式配当によって利益を得ていることなどが前提となります。

株式配当などの利益がなかったり、極端に少ないような場合、時価と取得価格とに大きな開きがある場合には、ある程度買戻し金額の上乗せを検討するのが無難でしょう。


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